関門トンネル人道(山口県→福岡県)

海を歩いて渡れる場所なんて、日本中を探してもそうそうありません。しかも本州と九州、県境をまたいで――となれば、これはもう「行くしかない」でしょう。今日はそんなワクワクを胸に、山口県下関市から福岡県北九州市まで、関門海峡の下をくぐる「関門トンネル人道」を歩いて渡ってみることにしました。国道9号線をひたすら東へ、そして地下へ。さあ、波の下の県境越えへ出発です。
徒歩で人道口を目指して国道9号線を東へ進んでいくと、視界の先にどんどん大きくなっていく巨大な吊り橋の姿が。1973年に開通した関門橋です。近づくにつれてその主塔の高さと橋げたのスケールに圧倒され、思わず足を止めて見上げてしまいました。関門海峡の最も狭まった場所、通称「早鞆瀬戸(はやとものせと)」をまたぐこの橋は、海峡を行き交う船と空を渡る道路が交差する、この土地ならではの景色をつくり出しています。これから自分はこの橋の下、さらにその下の海底を歩いて渡るのだと思うと、期待と少しの不思議な感覚が入り混じります。

関門橋を見上げながら道路を渡ると、あっけないほどすぐに「関門トンネル人道」の入口が現れます。

入口のエレベーター前には料金箱が設置されていて、歩行者は無料、自転車や原付は20円というリーズナブルな設定です。押して歩けば自転車もそのまま通行できるそうで、地域の人にとっては生活道路としても使われている様子がうかがえます。営業時間は午前6時から午後10時までとかなり長く、朝早くからでも夜遅めの時間でも渡ることができるのは嬉しいポイント。1958年(昭和33年)に開通したこのトンネルは、上下2層構造になっていて上が車道、下が今から歩くこの人道です。エレベーターは地下55〜60mほどまで一気に降りていくとのことで、扉が開く瞬間から非日常への入口という感じがしてきます。

エレベーターを降りると、そこはひんやりとした空気の漂う地下の通路。壁には「門司→」の案内表示がしっかりと掲げられていて、これから福岡県北九州市の門司側へ向かうのだと実感が湧いてきます。全長780mというこの人道、迷う心配(?)はなさそうです。さあ、いよいよ波の底の道を歩き出しましょう。

黙々と5分ほど歩いたところで、ふと後ろを振り返ってみると、先ほどの入口はもうずいぶん遠くに小さく見えます。まっすぐに伸びる通路の奥行きが、このトンネルの長さを物語っているようです。すれ違う人を見ていると、どうやら福岡側から山口側へ向かって歩いている人の方が多い印象。観光で下関側の御裳川(みもすそがわ)方面を目指す人が多いのか、あるいは単純に反対方向から来る人と行き違うタイミングだったのか。海の底で人とすれ違うというのも、なんだか不思議な体験です。

しばらく歩くと、床に引かれたラインで示された山口県と福岡県の境界に到着しました。世界的にも珍しい「海底の県境」ということもあり、ここは記念撮影の定番スポットになっているようで、大勢の人がカメラを構えて順番待ちをしています。正直なところ、なかなか自分の番が回ってこず、少し邪魔に感じてしまう場面もありましたが……気持ちはよくわかります。県境をまたいで写真を撮れる場所なんて、そう多くはありませんから。自分は通りすがりに適当に撮って、次の目的地・福岡側を目指すことにしました。

県境の写真撮影ラッシュを抜け、気持ちを切り替えて福岡側の出口を目指して歩を進めます。

しばらく歩き続けると、通路の先にほんのり明るい気配が。出口が近づいてきた合図です。

地上に出ると、目の前に現れたのは和布刈神社(めかりじんじゃ)の鳥居。その向こうには、出発前に見上げていた関門橋がどっしりと構えています。入口から出口まで、かかった時間はおよそ20分ほど。海の底をくぐって県境を越え、山口から福岡へと歩いて渡ってきたのだと思うと、達成感とちょっとした感動がこみ上げてきました。和布刈神社周辺からは関門海峡と関門橋を望む絶好の景色も広がっていて、ゴールにふさわしい眺めでした。
たった780m、歩いて20分ほどの道のりですが、その体験の濃さは距離以上のもの。関門橋を見上げながら歩き出し、地下へ潜って県境をまたぎ、また地上に戻ってくる――このコンパクトな行程の中に、歴史も景色も、ちょっとした非日常もぎゅっと詰まっていました。料金は歩行者無料、営業時間も朝6時から夜10時までと訪れやすく、思い立ったらふらりと立ち寄れるのも魅力です。本州から九州へ、海の底を歩いて渡るというちょっと変わった旅の思い出、ぜひ皆さんも自分の足で体験してみてください。
関門トンネル人道
・山口県下関市みもすそ川町22(山口側)
・福岡県北九州市門司区門司(福岡側)











