万治の石仏(長野県・諏訪郡 下諏訪町)

下諏訪駅に到着し改札を出ると、可愛らしい小型の「万治の石仏」のレプリカが参拝客を温かく迎えてくれます。旅のスタート地点でこのユニークな姿を目にすることで、これから向かう本物の石仏への期待が一気に高まります。レプリカでありながら、独特のおっとりとした表情や愛らしいフォルム、特徴的な胴体の細部まで丁寧に再現されています。かつて現代美術家の岡本太郎氏も絶賛したとされる独特の造形美を間近で観察でき、現地への道のりを歩む大きなモチベーションとなります。駅という日常の空間から、歴史と伝説の息づく神秘的な世界へと気持ちを心地よく切り替えさせてくれる嬉しいお出迎えです。

諏訪大社下社春宮のほど近く、砥川のほとりに佇む現地へ到着すると、下諏訪町による「万治の石仏と伝説」の解説板が設置されています。明暦3年(1657年)、春宮の大鳥居を造るためこの石にノミを入れたところ血が流れ出たという不思議な伝承が記されています。驚いた石工が作業を止め、阿弥陀如来を祀ったのが始まりとされ、万治3年(1660年)に建立されたことからその名がつきました。案内板をしっかり読むことで、単なる珍しい石像ではなく、神聖な霊石としての歴史や人々の信仰の背景を深く理解できます。伝説に思いを馳せることで、これから行うお参りへの誠実な気持ちが自然と深まっていきます。

伝説の案内板と並んで、下諏訪町が設置した「お参りの仕方」の解説板が目を引きます。万治の石仏には、全国的にも非常に珍しいユニークな参拝手順が定められています。まず正面で一礼し「よろずおさまりますように」と心で念じ、続いて願い事を唱えながら石仏の周りを時計回りに3周します。最後に正面へ戻り「よろずおさめました」と唱えて一礼をするという作法です。順序が分かりやすくイラストを交えて解説されているため、初めて訪れる参拝者でも迷わず正しく祈りを捧げることができます。参拝前にこの案内を読み込むことで心の準備が整い、独特な作法を体験する楽しみがさらに膨らみます。

参拝作法を確認し、少し離れた場所から万治の石仏の全体像を望みます。田園風景と清涼な砥川に囲まれた豊かな自然の中に、ぽつんと、しかし圧倒的な存在感を放ちながら静かに佇んでいます。大きな自然石の上にちょこんと頭部が載ったような独特のシルエットは、遠目から見てもひと目でそれとわかる唯一無二の個性を放っています。周囲の素朴な風景と見事に調和しており、訪れる者を優しく包み込んでくれるような温かい雰囲気が漂っています。遠くからそのお姿を眺めるだけでも、日常の喧騒から離れた静かな感動と、心が解きほぐされていくような深い安らぎを感じることができます。

石仏の周りを回る参拝作法に従い歩みを進めながら、まずは左側からの姿をじっくりと観察します。側面から拝見すると、巨大な自然石そのものの力強い質感が強調され、大自然のエネルギーを秘めた霊石であることがひしひしと伝わってきます。頭部と胴体部分の絶妙なバランスや、長い年月風雨に晒されてきた石の味わい深い風合いが浮き彫りになります。角度が変わるごとに印象が変化するのもこの石仏の大きな魅力であり、正面からでは気づきにくい立体感や自然石ならではの雄大な造形美を力強く実感でき、祈りを捧げながら歩む一歩一歩がとても味わい深いものとなります。

時計回りに歩みを進めて背後に回ると、普段は見落としがちな石仏の後姿が現れます。背面は自然石の丸みがそのまま残されており、まるで大きな亀の甲羅や温かい背中のような丸みを帯びたフォルムが愛らしく印象的です。後ろから眺めることで、この石がもともと一つの巨大な岩であったことが感じられ、自然物に対する昔の人々の畏敬の念がリアルに伝わってきます。静かに背中を丸めてたたずむ姿には不思議な哀愁と温もりが同居しており、参拝者を優しく受け入れてくれる包容力を感じさせます。背面を拝むという体験が、石仏との距離をより縮めてくれます。

さらに周回を進めて右側に立つと、また異なる光と影の表情を楽しむことができます。朝の光の当たり方によって石肌の凹凸や刻まれた陰影がくっきりと際立ち、幾重にも重なった歴史の重みがひしひしと伝わってきます。石仏の周りをゆっくりと回りながら願い事を心の中で繰り返し唱える時間は、自然と自分自身と深く向き合う瞑想のような静かなひとときとなります。右側からのアングルでも、自然の石と人の手が加わった彫刻が見事に融合した美しさが感じられ、信仰の対象としてだけでなく、芸術としても人々を惹きつける理由が深く納得できます。

三周を終えて再び正面に戻り、石仏とまっすぐに向き合います。正面からは、胴体に刻まれた阿弥陀如来を示す意匠や「万治三年」という刻印、そして何よりも穏やかで素朴な顔立ちが確認できます。岡本太郎氏が「これほど面白いものは見当たらない」と絶賛した個性的で愛らしい表情は、見つめているだけで心がなごみます。「よろずおさめました」と心の中で唱えて静かに一礼を捧げると、胸のつかえがすっと下りていくような清々しい充足感に包まれます。万物が穏やかに収まるかのような深い安らぎを得て、特別な参拝体験が完結します。

無事にお参りを終え、帰り道には石仏のすぐ脇を清らかに流れる「砥川(とがわ)」のせせらぎに目を向けます。澄み切った水が音を立てて流れる光景は、参拝後の心地よい余韻をさらに引き立ててくれます。水面が光を受けて輝く様子や川風の心地よさを感じながら歩くひとときは、心洗われるような爽やかさに満ちており、日々のストレスを綺麗に洗い流してくれるかのようです。万治の石仏がこの豊かな自然と清流のほとりに祀られた理由が肌で感じられ、素晴らしい参拝の締めくくりにふさわしい、心洗われる穏やかな景色が広がっています。
下諏訪駅のレプリカから始まり、伝説と独自の作法を持つ「万治の石仏」を巡る旅は、歴史の神秘と豊かな自然に心癒やされる特別な参拝体験となりました。石仏の周りを巡りながら祈りを捧げることで自分自身と向き合い、最後は砥川の清流とともに清々しい充足感を得ることができます。下諏訪の自然と信仰が調和した万治の石仏は、訪れる人の心を優しく整え、「よろず」を穏やかに収めてくれる素晴らしい名刹です。
万治の石仏(長野県・諏訪郡 下諏訪町)
・長野県諏訪郡下諏訪町社133
・「万治の石仏」バス停からすぐそこ。













